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NHK万葉集への招待

NHK BS ハイビジョンで1月1日(木)17:00~20:00に放送された「万葉集への招待」を観た。番組の予告では「万葉集はこんなに面白いをキーワードに、数々の秀歌を堪能しつつ、単身赴任者の浮気やシュールな言葉遊びなど古代の意外な顔を再発見する」と謳っていたので期待していた。断片的に万葉集の何種(何編)かは学んだことはあるが、全体的に学んだことはなかったからだ。
司会は国井雅比古アナウンサーとナレーターも兼ねた女優の檀 ふみが行った。檀 ふみは昨年一年間、NHKで「日めくり万葉集」のナレーターを行っていた。ゲストは三船美佳(タレント)、倉田真由美(漫画家)、林 望(作家)で、場面場面でその他のゲストが参加して解説がなされた。
第一部「古代からのメセージ」として「日めくりメッセージ」から10人の選者の歌が紹介された。その中で自分が気に入っている歌を紹介したい。
映画監督の篠田正浩が選んだ大友家持の歌「新(あらた)しき 年の初めの初春(はつはる)の 今日降る雪の いや頻(し)け吉事(よごと)((巻20 4516)」は今年の年賀状(2008年12月28日「平成21年年賀状作成余話」参照)に使用した。
この和歌は1252年前に創られたそうだ。後で述べる「200人の選んだベストテン」の3位にも入っている。「新しき年」と「初春」の季語がだぶっているように思っていたが、ゲストの奈良女子大学大学院の坂本信幸教授(2008年11月15日「山部赤人」参照)によると「新しき年」は「元旦」を示し「初春」は「二十四節気の春」を示す。この二つが重なった年は豊作になると信じられていたとのこと。おめでたいことが積もりに積もってよと、世の中が暗い今日この頃に、明るい希望をもたらせてくれる歌である。
画家の縜谷幸二が選んだ小野老朝臣の歌「あをによし奈良の都は 咲く花のにほふがごとく 今盛りなり(巻3 328)」は小さい時から口に出てくる歌である。ここ数年、年に5~7回奈良を訪づれているが平城京の朱雀門や高松塚古墳の壁画や人物群像の復元図の色彩を見るたびにこの歌を思い出す。「あをによし」は「奈良」の枕詞であるが、「あを」は青色、「に」は朱色を表すと聞いたことがあるからだろう。青色と朱色のあでやかな色彩の奈良の都に沢山の桜が咲き、活気のある町が想像される。現代の町並みの色彩は全体的にグレーな印象で、最近の世相の中では人の気持ちも落ち込んでしまうような気がする。
画家の安野光雄が選んだ志貴皇子の歌「石(いは)走(ばし)る 垂水(たるみ)の上の さわらびの 萌え出づる春に なりにけるかも(巻8 1418)」は春を待ちわびた気持ちが良く出ている。「200人の選んだベストテン」の2位に入っている。今年こそは世の中が良くなって欲しいと思っている人が多いのだろう。
「200人の選んだベストテン」の1位は額田王の「あかねさす 紫野(むらさきの)行き 標野(しめの)行き 野守(のもり)は見ずや 君が袖(そで)振る(巻1 20)」だった。この歌は「日めくり万葉集」が開始された昨年の一月の第一回に選ばれた歌だ。「あかねさす」は「紫」の枕詞、「紫野」は染料の紫草を栽培した野原、「標野」は皇室の所有地、「野守」は番人、「袖振る」は求愛のことだそうだ。天智天皇に同行した額田王が大海女皇子に対し差し上げた歌だそうだ。背景は天皇に召される前に大海女皇子と結婚していた額田王に大海女皇子が袖を振ったことに対し番人に見られてしまう心配を歌ったもの。恥ずかしながら自分は知らなかった歌だ。愛しい人に思われる女性の気持ちが出ているので、女性票が多かったのではないかと推測する。
2位と3位はすでに記したとおりである。
4位は持統天皇の「春過ぎて 夏来るらし 白たへの 衣干したり 天の香具山(巻1 28)」で、持統天皇が藤原京へ遷都した後で大和三山の一つである香具山を見て歌ったのだろう。初夏に香具山の上に衣に見立てた白い雲がかかっている情景を歌ったように思える(学者でない自分にはこの様な情景が浮かぶ)。ただし香具山の前に「天の」とつけた背景は何だろうか?
5位は山部赤人(2008年11月15日「山部赤人」参照)の「田子の浦ゆ うち出でて見れば ま白にそ 富士の高嶺に 雪は降りける(巻3 318)」で口に出てくる歌である。前出の坂本信幸教授によると「ゆ」は「通り過ぎる」の意味を持っているそうだ。そう思ってこの歌を読んでみると今までの静止画から動画に代わって見える。
長文になるので6位以下で自分が気に入っている歌を一つだけあげよう。
7位に入った柿本人麻呂の「東(ひんがし)の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月傾きぬ(巻1 48)」である。歴史的には「かぎろい」は「軽皇子」、「月」は「草壁皇子」を表しているそうで、「草壁皇子」が沈み、「軽皇子」が光輝きながら登ってくることを歌ったのだそうだ。凡人の自分は奈良盆地を思い浮かべ、二上山に月が沈もうとしているが、振り返ると三輪山から朝日が輝いて登ってくる情景をイメージしてしまう。自然界の営みをあざやかな色彩で描いた情景歌だと思う。
今回は「季節の歌」や里中満智子が漫画「天上の虹」で悲劇の皇子と皇女として大津皇子(2008年10月13日「二上山・當麻寺・石光寺」参照)と大伯皇女の物語を作るために御厨子(みずし)神社などを訪れた。
権力闘争の犠牲となった弟を二上山に葬る時の歌「うつそみの人にある我(われ)や 明日よりは 二上山(ふたかみやま)を 弟(いろせ)と我(わが)見む(巻2 165)」や大津皇子の辞世の歌「百伝(ももづた)ふ 磐余(いわれ)の池に 鳴く鴨を 今日のみ見てや 雲隠りなむ(巻3 416)」が紹介された。
第二部「恋の歌」として、「田辺聖子万葉恋愛講座」として、「恋のかけひき」、「熟年の恋」、「恋愛編」、「男のダメップリの歌」、「愛の往復書簡(63種の歌があるそうだ)」、「万葉旅の歌」などが紹介された。
第三部「受けつがれた万葉集」として「東儀秀樹」の古代楽器「排簫(はいしょう)」の演奏や「讃酒歌」、「防人の歌」などの紹介があった。
正月番組に相応しく「新(あらた)しき 年の初めの初春(はつはる)の 今日降る雪の いや頻(し)け吉事(よごと)(巻20 4516)」で終わった。
歴史的事件に絡んだ歌、恋愛歌、ダメ男の歌、讃酒歌、防人に行く子供を心配する母の心情を歌った歌など人間臭い歌が含まれていることを知った。「万葉集」を身近に感じるとともに、大変面白いと思った。今後、もっと詳しく知りたい。 

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